はじめに
「ありがたいことよね。」
約30分のお話の中で、電器店社長は何度もこの言葉を口にされました。
- お客様のこと
- 奥様のこと
- ご両親のこと
- 息子さんのこと
- 取引先のこと
- 地域のこと。
私は今回、「事業承継」についてお話を聞かせていただこうと思い、お店を訪問。
ところが、帰る頃には事業承継以上に大切なものを教えていただいた気がしました。
それは、「感謝の気持ち」が人とのつながりをつくり、その積み重ねが50年という歴史を築いてきたということでした。
「売る」のではなく、「困りごとを解決する」
電器店社長は、営業についてこんなことを話してくださいました。
「ものを買ってくださいとは言わなかった。」
- 欲しいと言われたら丁寧に説明をして販売する
- 壊れたら修理に行く
- 困っていたらすぐに駆け付ける
昔はテレビの修理も店を閉めた夜8時、9時からお客様の家へ伺い、ハンダごてを使って部品交換までされていたそうです。
今では新品製品に交換が主流ですが、当時は一台一台を直して使う時代。
「売ること」より、「直してあげること」。
その積み重ねが、お客様との信頼になっていきました。
会社員時代の経験は、独立後の大きな財産になる
社長は、独立される前、大手電機メーカーで営業マンとして働かれていました。
担当する販売店を訪問し、
「どうすればもっとお客様に喜んでいただけるか」
「どうすればお店の売上が伸びるのか」
を店主と一緒に考え、改善を重ねる毎日だったそうです。
また、電機メーカーでは、販売だけでなく、家電製品の修理技術や電気に関する専門知識、資格の取得など、多くのことを学ばれました。
「電器屋になるつもりはなかったけれど、今思えば、あの経験があったからこそ独立してやってこられた。」
そう振り返る社長の言葉がとても印象的でした。
- 家電の修理方法を覚えた
- 商品の説明や販売方法を学んだ
- お客様との接し方や、人とのコミュニケーションを身につけた
その一つひとつが、独立後の大きな武器となり、50年間続く地域の電器店の土台になっていたのです。
さらに、当時は電機メーカー全体に勢いがあり、研修や資格取得制度も充実していました。
社長は、その時代や会社に対しても「本当に多くのことを学ばせてもらった。ありがたかった。」と感謝されていました。
私はこのお話を聞きながら、以前ブログで書いた「50代からの独立シリーズ」のことを思い出し。
会社員時代は、毎日同じ仕事の繰り返しだと感じることもあります。
しかし、その経験や知識、人との出会い、失敗や成功の積み重ねは、決して無駄にはなりません。
むしろ、独立したときには、それらすべてが「自分だけの財産」となり、大きな自信につながります。
社長の50年の歩みは、そのことを改めて教えてくださいました。
真面目に続けていると、いいことがある
「独立をやめようと思ったことはない。」
そう笑顔で話される社長。
独立した当時は、お子さんもまだ幼く、生活も決して楽ではありませんでした。
忙しい日は、小さなお子さん二人を二槽式洗濯機の中に入れて待ってもらいながら接客したこともあったそうです。
奥様は家事と育児を一人で支え、お店も一緒に切り盛りする毎日。
本当に大変だったはずです。
それでも社長は振り返ります。
「真面目にやっていると、いいことはある。」
とても短い言葉ですが、50年という重みを感じました。
50年続いた理由は、夫婦二人三脚だったから
お話を聞いていて何度も感じたのは、奥様の存在の大きさ。
社長がお客様の対応をしている間、奥様は家事や子育て、お店の仕事まで支えてこられました。
夕方6時ごろになると息子さんを幼稚園へ迎えに行き、自宅に戻って家事や食事の支度。
夜になると社長は修理へ出掛ける。
そんな生活を何十年も続けてこられたそうです。
そして今でも、お二人は昔話を笑顔で語り合います。
その姿を見ているだけで、「いいご夫婦だな」と自然に思える時間でした。
息子さんたちが帰ってきた理由
現在は二人の息子さんも一緒に仕事をされています。
しかし、それは最初から決まっていたわけではありません。
長男さんは一緒に仕事をしながら、仕事を覚え、資格も取得されていましたが、25歳の時に病気が見つかり、約半年間の入院生活。
そして大学卒業後に就職する予定だった次男さんは、家族を支えるため就職を取りやめ、お店へ戻られたそうです。
人生には思い通りにならないことがあります。
それでも家族で支え合い、乗り越えてきたからこそ、今の姿があるのだと思いました。
「まだ息子より早いよ」
78歳になった今でも、社長は現役です。
- エコキュートの交換
- エアコンの取り付け
- 重たい冷蔵庫の搬入
- 船舶へのエアコン設置工事
「体は元気。働くからボケない。」
そう笑いながら話されていました。
「まだ息子より手の動きは早いよ!」
その言葉には、仕事への誇りと楽しさがあふれていました。
50年積み重ねた技術は、今も現場で受け継がれている
以前、我が家にエアコンを取り付けて頂いたことがありました。
78歳になった今でも、社長は現場で工具を持ち、自ら作業をされています。
その隣では息子さんも同じように仕事をしていました。
「技術は言葉だけでは伝わらない。」
一緒に汗を流し、同じ現場で経験を積み重ねることで、少しずつ受け継がれていく。
そんな親子の姿を見て、事業承継とは会社を引き継ぐことだけではなく、「仕事への姿勢」や「お客様を大切にする心」を伝えていくことなのだと、私は改めて感じました。
地元で商売を続けるという選択
大型家電量販店から仕事の依頼もあったそうです。
しかし社長は、その道を選びませんでした。
- 地域のお客様と向き合い
- 一軒一軒の困りごとに応える
- 押し売りはしない
「田舎の人は、人がいいから押し売りは嫌がる。」
だから修理でも、小さな相談でも断らない。
その結果、お客様がお客様を紹介してくださるようになりました。
広告ではなく、人が人をつないでくれる。
地域密着の商売の原点を聞かせていただいた気がしました。
私が一番心に残った言葉
今回、私が一番印象に残った言葉があります。
「苦しいと思った時代はない。
ただただ、一生懸命にお客様のために動いていた。
楽しかった。」
50年間も商売を続ければ、苦労がないはずはありません。
それでも社長は、「苦しかった」とは一度も言われませんでした。
その代わりに何度も口にされたのが、
「ありがたいことよね。」
という言葉でした。
- お客様に
- 地域に
- ご両親に
- 奥様に
- 息子さんに
- 取引先に
私は、お話を聞きながら思いました。
人に恵まれたから感謝するのではなく、
感謝を忘れなかったから、人に恵まれた人生になったのではないかと。
おわりに
私は今回、事業承継について学びたいと思い、お話をお聞きしました。
しかし実際に学ばせていただいたのは、「会社を引き継ぐ方法」ではありませんでした。
それ以上に大切な、「人との向き合い方」でした。
建設業も、電気工事も、地域の仕事も、最後は人と人との信頼で成り立っています。
だからこそ、技術だけでなく、その想いも次の世代へ引き継いでいくことが大切なのだと改めて感じました。
社長、奥様。
お忙しい中、貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。
これからも、お二人の笑顔と「ありがたいことよね」という言葉を忘れず、私自身も地域に必要とされる仕事を続けていきたいと思います。

ながつき行政書士事務所
江郷 晴彦
えごう はるひこ
広島県江田島市の行政書士事務所。 建設業許可や一人親方の手続き、建設業の経営サポートを中心に対応しています。 建設業許可や一人親方の手続きに関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。




