建設業の事業承継で本当に大切なのは「人」の承継|技術・信頼・想いを未来へつなぐ

はじめに

これまでのシリーズでは、建設業許可や事業承継計画などについてお話ししてきました。

しかし、私が建設業に長く携わり、多くの建設会社の社長とお話をしてきて、一番強く感じることがあります。

それは、

建設業で本当に引き継ぐべきものは、「人」が持っている経験や想い」だということです。

会社も、

建設業許可も、

機械も、

もちろん大切です。

しかし、それだけでは会社は続きません。

会社を支えているのは、いつの時代も「人」です。

だから私は、建設業の事業承継とは、単に会社を引き継ぐことではなく、「人」を育て、想いを受け継いでいくことだと考えています。

建設業は「人」がつくる仕事

建物、道路、橋など、建設業がつくるものは、同じように見えてもまったく同じものはありません。

たとえ同じ建物でも、

建てる場所が違えば地盤が違い、

周辺環境が違えば施工方法も変わります。

そのため建設業は、長年培われた技術と経験が必要な仕事です。

さらに、建築物は

  • 打ち合わせ
  • 設計
  • 材料の手配
  • 工場での加工
  • 現場での施工
  • 完成後のアフターメンテナンス

という多くの工程を経て完成します。

その一つひとつに、多くの人が関わっています。

AIやロボットが進化しても、人の判断や経験が必要な場面は数え切れないほどあります。

だから私は、

建設業最大の財産は「人」だと思っています。

「人材」を「人財」と表現される方がいるのも、その理由なのでしょう。

社長しか持っていない財産がある

建設会社の社長は、

「まだまだ私は元気だ。」

「息子や社員にはまだ負けない。」

「引退なんて、まだ考えていない。」

そんな気迫と責任感を持って仕事をされている方が本当に多くおられます。

私も、その姿を現場で何度も見てきました。

だからこそ、会社をここまで成長させてきた社長を簡単に超えることはできません。

しかし、それは社長が特別だからではありません。

長年かけて積み重ねてきた

  • 信用
  • 信頼
  • 認知度
  • 経験
  • 技術
  • 判断力

これらすべてが、社長だけの財産になっているからです。

そして、その財産こそが、会社を支えている本当の力なのです。

技術は教えられても、経験は一緒に積み重ねるもの

  • ボルトを締める
  • 図面を読む
  • 材料を加工する

こうした作業は教えれば覚えられます。

しかし、

  • この現場はどこに危険があるか
  • この職人さんにはどう伝えればよいか
  • 雨が降る前に何を優先すべきか
  • 工程をどう組めば現場がスムーズに進むか

こうした判断は、何年も現場で経験を積み重ねて初めて身に付くものです。

だから私は、

技術承継とは、一緒に仕事をする時間そのものだと思っています。

「人」の承継には5年、10年という時間が必要

社長が、「この人に会社を任せたい。」

そう思える後継者が見つかったとしても、

  • 社長の考え方
  • 仕事への向き合い方
  • 判断の基準
  • 現場の進め方
  • お客様との接し方

などまで伝えるには、

5年から10年という時間が必要ではないでしょうか。

まして、後継者がまだ決まっていない会社では、さらに長い時間が必要になります。

だからこそ、事業承継は「まだ早い」と思っている今こそ始めるべきなのです。

お客様との信頼も引き継ぐ

建設業は、会社に仕事が来るというより、

「あの社長だからお願いしたい。」

という仕事が本当に多い業界です。

だからこそ、

  • 後継者をお客様へ紹介し
  • 一緒に現場へ行き
  • 一緒に打ち合わせを重ねながら

少しずつ信頼を引き継いでいく。

これも大切な事業承継です。

信頼は契約書では渡せません。

時間をかけて育てるしかないのです。

社員の安心した暮らしを守ることも社長の仕事

  • 会社には社員がいます
  • 社員には家族がいます
  • 住宅ローンを抱えている人もいます
  • 子育て中の人もいます

多くの場合、

社員は社長を信頼しているからこそ、その会社で働き続けています。

だから、

  • 会社を誰に引き継ぐのか
  • これから会社はどうなるのか

その未来を示すことも、社長の大切な責任ではないでしょうか。

社員が安心して働き続けられる会社を残すこと。

それも事業承継の大切な役割です。

地域とのつながりも会社の財産

建設業は地域産業です。

社長は、

  • 消防団
  • 自治会
  • 祭り
  • 商工会
  • 地域活動など、

長年かけて地域との信頼関係を築いてきました。

この人とのつながりも、会社の大切な財産です。

ぜひ次の世代へ引き継いでほしいと思います。

技術より先に伝えてほしいこと

私は、技術よりも先に伝えてほしいものがあります。

それは、仕事への姿勢です。

  • 約束を守ること
  • あいさつをすること
  • 掃除をすること
  • お客様を大切にすること
  • 地域を大切にすること

こうした姿勢が会社の文化になります。

文化は、一日ではできません。

だからこそ、

社長自身が背中で示し続けることが何より大切なのです。

私が人材育成について思い出す言葉があります。

山本五十六さんの有名な言葉

やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。

話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。

やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。

この言葉は、建設業の事業承継にもそのまま当てはまると私は感じています。

人は教えるだけでは育ちません。

  • 一緒に働き
  • 見守り
  • 信じ
  • 任せる

ことで初めて育っていくのです。

まとめ

私は、建設業の事業承継の中で、一番難しいのは「人との信用・信頼を引き継ぐこと」だと考えています。

技術や知識はマニュアルに残せます。

手続きは専門家に相談できます。

しかし、

  • 信用
  • 信頼
  • 仕事への姿勢
  • 人とのつながり

などは、毎日の仕事の積み重ねの中でしか受け継ぐことはできません。

だからこそ、事業承継は早く始める必要があります。

社長が元気なうちに、

  • 一緒に働き
  • 一緒に悩み
  • 一緒に成長する時間をつくる

その時間こそが、会社の未来を支える一番大きな財産になります。

私は、建設業の事業承継とは、会社を引き継ぐことではなく、人を育て、想いを受け継ぎ、地域へつないでいくことだと思っています。

そして、その積み重ねが、何十年先も地域に愛され、社会に貢献できる建設会社を育てていくのだと信じています。

「私がインタビューさせていただいた電器店社長ご夫妻からも、『技術』だけでなく『お客様への感謝の気持ち』を受け継ぐことの大切さを教えていただきました。」

「ありがとう」を積み重ねた50年|地域に愛される街の電器店社長に学んだこと